「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 時計を見るとまだ十九時で、定時で飲みに行ったとしても帰宅するには早い。

 きっと麻美だろうと軽い気持ちでメッセージアプリを開くと、巧さんから予想外の内容が送られていてスマートフォンを取り落としそうになった。

「同僚を家に連れていっていいか……すぐ帰らせるから……って、え!?」

 文字を声に出して読み上げた後、気持ちを落ち着かせるために部屋の中を行ったり来たりする。

 どうしよう。いや、どうにもならないから、準備しないと。

 すぐに『大丈夫です。私のことは気にしないでください』と返信してからリビングやトイレの掃除を開始する。

 シャワーを浴びなくてよかった。メイクはよれて汚くなった箇所だけ五分くらいで簡単に直し、汗でぼさぼさになった髪もささっとブローをして整える。

 ええっと、後は大丈夫だよね。でも冷蔵庫にお酒はひとつもないけど、気づいているかな。

 自宅で飲み直すのか、はたまた仕事関係の話をしたいからひと気のない場合へ移動することにしたのか、どういう目的なのかが分からない。

 そもそも私って出迎えていいの? 奥に引っ込んでおくべき? 会社の人に結婚の報告をしたのか聞いていない……。

 大事な部分なのにのんびり構えていた自分に愕然とする。思考が停止して部屋の隅で立ち尽くしていると、インターホンが鳴って心臓がビクッと飛び跳ねた。
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