「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「近所迷惑だ。声量を抑えろ」

 巧さんとは真逆そうな雰囲気を持つ男性で、呆気に取られて挨拶が遅れた。

「あっ……えっと、美月です。よろしくお願いします」

 新妻らしい挨拶は咄嗟に浮かんだが、それを口にする勇気がなくて淡泊な台詞になった。

 話し方もしどろもどろだったし、『早戸をいつもお世話しています』のジョークを無視しちゃったし、完全に失敗した……。

「すっごい美人だね! 予想をはるかに超えてきて、俺、ちょっと胸がドキドキしてる」

 初っ端から後悔に苛まれたが落胆している場合ではなさそうだ。次々に繰り出される軽口は、私の語彙力では全く対応できない。

 どうしよう。

「そんな、滅相もないです」

 結局こんな言葉しか出てこなくて、頭を抱えてうずくまりたくなった。

「美月に絡むな、酔っ払い」

 いつになく手厳しい物言いをする巧さんに驚いて、思わず動きを止めてじっと見つめた。

 心を許している友人の前では、こういうふうになるんだ。

 新たな一面を知れて嬉しい。
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