「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 僅かな沈黙が落ち、巧さんが「そういうわけではない」ときっぱり言い切る。胸がざわざわとして息が詰まり、作り置きしてあるおかずのタッパーを幾つか取り出した。

「俺が憲明さんにしてもらったように、誰かを保護する可能性も視野に入れていた」

「そうなんですか?」

 深く考えず、脊髄反射のごとく反応して我に返る。

 前のめりになりすぎだ。一旦落ち着こう。あれ? でも……。

「矢沢さんは、巧さんの事情や父のこともご存知なんですか?」

「美月の次に、俺について知っているはず」

 ふたりの親交の深さに感嘆するような、胸の辺りが温かくなるような気持ちを抱く。

「とても仲がいいんですね」

「腐れ縁なだけだ」

 口調はさっぱりしていても、矢沢さんの話題を口にしている時の巧さんのまとう雰囲気は柔らかい。

「またまた、そんなこと言って。俺のこと大好きなくせに」

「自分で言っていて気持ち悪くないのか」

 ふたりのやり取りが漫才みたいで面白い。

 肩を揺らして笑っている私の真横にきた巧さんがタッパーを覗き込む。

「それ、食べていいのか?」

「つまみになりますかね?」

「ああ。これ美味しかった」

 指さした鮭の南蛮漬けは、大食いではない巧さんが珍しくおかわりをしたのが印象的だったので、きっと好きなのだろうと思ってまた作ったもの。

 やっぱり美味しかったんだ、よかった。
< 145 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop