「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 カップに口をつけて喉を潤すと、無意識に細く長い息をついていた。

 それにしても美月ちゃんの身に何があったのだろう。後ろで綺麗にひとつにまとめた髪も、彼女の優しい雰囲気を壊さない自然なメイクも、こう言っては悪いが酷いありさまだった。

 加えてあの足は捻挫か……。しまったな、フロントに連絡して冷やすものを手配すればよかった。

 気の回らない自分を叱咤し、少し冷めて飲みやすくなった珈琲を喉に流し込む。

 左腕にはめた腕時計を確認するともうすぐ二十二時を回ろうとしていた。家に送りつつ話を聞けそうなら聞こう。明日も仕事だろうし、早く帰してあげたい。



 部屋に戻ると、美月ちゃんはシャワーを浴びたらしく髪を下ろしていた。化粧も落としていて、記憶にあった昔の姿と少し重なる。

「遅くなってすまない。それ、買ったのか?」

 ワンピースの上から羽織っている白色のカーディガンは、彼女の優しい雰囲気に似合っている。

「遅くまでお疲れさまです。カーディガンですよね? さすがに見苦しいので、ホテルに入っているテナントで買いました。閉店ぎりぎりで、間に合ってよかったです」

 数時間前の硬かった表情はもうなく、にこやかに返す美月ちゃんの様子に感心した。足には湿布も貼ってあり、きちんと自分で対処できている。

 改めて、もうれっきとした大人の女性なのだと実感する。
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