「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 ただ、『契約結婚だから気負う必要はない』と言われたのは内心堪えた。

 もしかしたら私に気を遣っていて、言葉通りの意味だけではないのかもしれない。それでも巧さんの心のなかに、私の存在はないように聞こえた。

「ごめんね美月ちゃん」

「いえ、そんな」

 本来なら新婚夫婦の馴れ初めは酒のつまみにはもってこいのはず。気まずい雰囲気にさせて申し訳なさが募り、暗い顔をしないようにチューハイを煽った。

「早戸はこれ見よがしに、結婚指輪のアピールをしているよな」

 巧さんは怪訝な顔色を浮かべる。

「アピールなんてしていない」

「暇さえあれば指輪を触っているだろう。それされると、こっちは目で追っちゃう」

 無言のまま瞬きを繰り返し、「そうなのか」と声を落とした巧さんから目が離せなかった。

 面喰った表情は初めて目にした。

 私はネックレスをつけると留め具の位置がずれていないかの確認のため何度も触るし、指輪もぴたりとサイズが合わないと回転するのが気になったりする。

 普段指輪をつけない巧さんにしてみれば無意識だったのだと想像できる。
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