「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「矢沢がありでも、美月はなしだ」

「勝手に決めるなよ」

 唇を尖らせた矢沢さんを無視して巧さんが立ち上がる。

「トイレ行ってくる」

 巧さんがリビングから出ていくのを見送ってから顔を戻すと、矢沢さんがこちらを見ていて視線が真正面から絡み合った。

「もしかして外でご飯食べていないですか?」

「食べたよ? なんで?」

「よく食べるなと思ったので」

「食い意地張ってるって?」

 苦笑して首を横に振る。

「そんなこと言っていませんよ。まだ食べますか?」

「まだあるの?」

「なにがいいかなぁ」

 ひとり言を呟いてキッチンへ向かうと、何故か矢沢さんもついてきた。

「つまみ系じゃなくて、最初からメイン料理を出せばよかったですね。キムチは好きですか?」

「好き好き!」

 少年のような反応が返ってきて、可愛らしいなと微笑む。

 って、年上の男性に対して可愛いというのはどうなのか……。あれ、そういえば。

「矢沢さんって巧さんと同い年ですか?」

 キムチと豚肉のパックを取り出すと、私に代わって矢沢さんが閉めた。

「そうだよ。警察学校が一緒だったんだ」

「ただの同僚ではなかったんですね」

 どうりで仲がいいはずだ。もう十数年来の付き合いということになる。

「ただのって」

 けらけらと笑う愉快な矢沢さんを尻目に調理を始める。
< 155 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop