「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「私の父とは会ったことはあるんですか?」

「一度見かけたよ。早戸と一緒にいる時に尋ねてきて、挨拶だけした」

「なんだか不思議な感じです」

 矢沢さんとは初対面なのに十年以上前に彼は父と会っているなんて。

 世間は狭いのではなくて、私たちは狭い世界に濃い繋がりを持っている。

「俺もだよ。早戸とここまで仲よくなれるとは思っていなかったし」

「巧さんがポーカーフェイスだから?」

 座っていれば大丈夫でも立つと酔いが回っているせいでふらつく。キムチの容器の蓋を外せないでいると、矢沢さんが横からかっさらっていった。

「そうそう、でもさ。……警察学校って本当に厳しくて。制限も多いからストレスを抱えている人が多くて、なんかこう、嫌なムードだったわけ。そんななかで飄々としている早戸とは、一緒にいて楽だった」

 キッチンバサミで切った豚肉を油で熱したフライパンに入れて炒める。

「周りに影響を受けず安定している人のそばでは、息がしやすいですよね」

 野田さんと栗林さん、部長や麻美の姿が脳裏に浮かぶ。

「そうなんだよ」

 矢沢さんは蓋が開いたキムチの容器を持ったまま私の隣に控えている。

 このまま手伝ってくれるのかな。
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