「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「矢沢さんすみません。葱を取りたいので、ちょっと代わっても――あっつ!」

 後ろを振り返った際に腕をフライパンのふちにぶつけた。刺すような痛みが走って後ろに飛び退く。

「大丈夫!?」

 矢沢さんは火を止め、火傷していない方の手を引っ張ってシンクまで私を誘導する。レバーを上げて水を出し、手をそこへ持っていった。

 早送り再生のような素早さで感服する。

「ありがとうございます」

 突然の出来事と、ヒリヒリと痛む火傷にまだ動揺していて声が震えた。

「いいよ。俺がいたから気が散ったよね。ごめん」

「間違いなく、私の不注意です」

 真剣な横顔は、軽口を叩いていた姿とは似ても似つかない。

 処置してもらって助かったのだけれど、そろそろ手を離してもらってもいいんだけどな。警察官の人はみんな庇護欲が強いのだろうか。

「ていうか、早戸遅くないか?」

「様子見てきてもらっていいで――」

 言い終わる前に扉が開いた。私たちを見て怪訝な表情になった巧さんがこちらに来る。
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