「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 俺は感情を上手く外に出せない性格で、両親の死をきっかけに拍車がかかった。それに比べて美月ちゃんは昔からはきはきとしており、表情にも言葉にも自分の意思をのせることができている。

 そうだ、こういうところに好感を持っていたんだ。

 変わらない彼女の長所に胸が温かくなる。

「送っていこう。すぐ出られるか?」

 そのつもりだったので一度も腰を下ろすことなくドアの前で話していたのだが、美月ちゃんは頷きつつも表情を暗くした。

「歩くのが辛い?」

「それもあるんですけど……。私もこのまま、このホテルに泊まっていこうかと思っていて。ネットで見た限りでは、部屋は空いているみたいです」

 事情がありそうな空気を察し、スーツのジャケットをハンガーにかけてからベッドに座る美月ちゃんの隣に腰掛けた。

「無理にとは言わないけど、何があったか俺に話せないか?」

 美月ちゃんは俺から目線を外し、太腿の上で握り合わせている両手を見つめる。それからホテルレストランであった出来事を話してくれた。

「お恥ずかしい話なんですけど――」

 何度か言葉を詰まらせ、込み上げた想いを鎮まらせている姿には、俺の心も握り潰されたかのように痛んだ。

 こんなにいい子なのに、どうしてそんな男に……。いや、素直だからそいつの言動を疑いもせず信じたのか。
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