「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「よく火傷するんですけど、次からはこれやってみます」

 何気ない発言だったのだが巧さんは眉間にぐっと皺を寄せた。『よく?』という心の声が聞こえてくるようで、分かりやすく感情を表現する顔をじっと見据える。

「だいぶ酔ってます?」

 アルコールの影響で感情表現が豊かになっていそうだ。

「酔ってはいるけど、これくらいでは酔わない」

「どっちですか」

 素なのか冗談なのか判別がつかない。噴き出すように笑うと、巧さんの身体からふっと力が抜けたように見えた。

 心配をしてくれたんだよね。捻挫の時もそうだったし、他者の痛みに敏感な人なのだ。巧さんの心に負担をかけないように、気を引き締めて料理をしよう。

「はいはい、そこの新婚さん。見つめ合っていないで、俺の渾身の豚キムチ炒めを食べてくださーい」

 元気な声がした方を振り向く。

 大皿を両手に持った矢沢さんの表情は、テストで百点を取って親に褒めてもらえるのを待っている少年のようだ。

「美味しそう。人に作ってもらった料理だと、食欲が湧くのはなんででしょう」

「俺はいつでも食べたいから分からないなぁ」

 ごく普通の返事でまたもや笑ってしまう。あと少なからずチューハイが回って気分がよくなっているからだ。

 笑い上戸ってこんな感じなのかな。

 そこからはふたりの昔話や職場の話に花が咲き、夜は更けていった。

< 161 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop