「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
――巧side
両親をひき逃げした犯人を捕まえた。この手で。
現在では死亡事故に繋がるひき逃げ事件の検挙率は百パーセントを超える。しかし両親が亡くなった十五年前、ドライブレコーダーは主流ではなく検挙率は百パーセントと言えなかった。
あの日、家に病院から電話がかかってきたのは二十一時を過ぎた頃だった。父方の祖父が交通事故に遭い、病院に運ばれたが意識不明の重体だと。
高校三年生でテスト期間だった俺だけ自宅に残り、両親は病院へ車を走らせたのだが、その先で事故に遭った。
関係者の目撃情報によると、高速道路で前を走る車が突如バーストし、運転不能となった車体がぶつかってきたそうだ。
二台の車はもつれあうようにしてガードレールに衝突したが、奇跡的に双方命に別状はなかった。外に出て、警察署や自動車保険会社に電話している最中に事件は起こったのだ。
ハザードランプを点灯させてはいたが、暗闇で、しかも自動車は速度が出ている高速道路上。犯人が運転する車はこの予期せぬ状況に対応できず、外で待機していた両親を跳ね飛ばした。
様々な不運が重なった結末なのだが、どうして両親がこんな目に遭わないといけないのか。消し去ることのできない憎悪はひき逃げ犯へ、やるせない悲しみは神様を呪うことでしか心のバランスを保てなかった。