「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 憲明さんや聡子さんが他人という境界線を越えて接してくれたから、悲しみにどっぷりつかったまま腐っていく人生にならなかった。

 いつかこの人たちに恩返しができるように、守ってあげてよかったと、選択を正解と思える日がるくように前を向き続けることができた。

 ただ、立ち直ったからといって、過去の出来事をすべて受け入れたわけではない。むしろパズルのピースが欠けて、不完全な状態が十五年も続いていた。

 犯人が逮捕されれば、この呪縛から解放されると思っていたのに。

「早戸、明日は休もう。おまえの分の有給休暇、申請したから」

 ひとりになりたくて、警察庁のひと気のないひっそりとした階段で缶珈琲を飲んでいると、どこからともなく矢沢が現れた。

 さすが、尾行はお手のものだな。

「勝手だな」

「優しさだ」

 言下に返してきた矢沢に、思わずふっと笑いがこぼれた。

 危険運転致死罪の公訴期間は二十年だが、過失運転致死罪は十年。

 十年を過ぎたところで捜査は俺が個人的にすると上にかけあった。時間の許す限り数少ない情報から人物や車両の特定に奔走しているうちに、気づいたら矢沢も同行することが増え、ここ数年は共に捜査してきた。

 確か初めてくっついてきた時は、俺が行く土地のご当地グルメが食べたいとか言っていたな。
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