「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「飲みに行こう」

「……たまにはいいか」

「そうそう。俺ら頑張りすぎだからさ」

 警察学校からの付き合いの矢沢は、昔から性格が変わっていない。底抜けに明るくて、その場をぱっと明るくさせる力を持っている。

 誰とでも仲よくやれる性格なのにどうして俺に構うのか。あえて聞くことでもないからずっと不思議に感じている。

 業務を終え、矢沢が行きたがっているダイニングバーに向かった。駅のすぐそばに位置するビルのなかにあり、店内の席からは夜景が眺められる。

「ここは洒落ている奴じゃないと行きづらいから、ずっと気になっていたけどこれずにいたんだ」

「洒落ているか? 俺もおまえも」

 矢沢は答えず愉快気にけらけらと笑った。その姿は客観的に見てもビル群の夜景に合っていない。

 まあ、イケメンではあるんだが。

 矢沢がいろいろ楽しみたいと言うので、ディナーはコースではなくアラカルトにした。

 せっかくなのでシャンパンで乾杯し、上品な味付けの食事を堪能する。

「誘ってくれてありがとう。本音を言うと、気が滅入っていた」

 矢沢はきょとんとした後、口角をぐいっと引き上げて笑う。

「そうだろう。感謝しろよ」

「ああ」と短く返して、和牛サーロインのポワレに合う赤ワインをオーダーする。

 矢沢はマグロのカルパッチョをぺろりと平らげ、追加で和牛ランプの炭火焼きを頼んだ。
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