「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「私、持病があって、妊娠しづらいんです」

「そうなのか」

 それ以上掛ける言葉が見つからない。女性との交流は仕事以外で基本的にないので、こういったデリケートな問題に直面したのは初めてだ。だから彼女の心を軽くしてあげる方法が残念ながらすぐに浮かばなかった。

「子どもがいなくても関係ないよって言ってくれたんです。だから私、彼となら安心してこの先も一緒にいられると考えていました。でもそれは浮気相手だったからですよね。きっと私より、内村さんと結婚した方が幸せだったんだろうし、仕方ないことだと理解できます」

 そこは理解する必要もないし、もっと不満を持っていいのに。無理をしていないか心配になる。

「やっぱり私は結婚なんて夢を見たらダメなのかな」

 美月ちゃんは微かに空気を震わせるような息をつき、背中をぐっと丸める。小柄な彼女がもっと小さくなったように見えた。

「両親が離婚してうちはバラバラになったけど、私はここが居場所だと思えるような温かな家庭を作りたい。子どもが出来なくても、旦那さんがいれば、それは家族だと私は思うんです」

 彼女の視界の隅でも分かるように、大きく首を上下に動かした。

「俺もそう思うよ」

「ありがとうございます」

 無理やり口角を上げて笑おうとする陰りのある横顔に、なんとも言えない感情が込み上げた。

 こういうのを庇護欲と呼ぶのだろうか。似たような感情を抱くのは、今まで扱った刑事事件の中で何度かあった。しかしそれは残された遺族がまだ子どもだったり、明らかに守るべき対象だった場合に限る。

 俺にとって美月ちゃんは、大人の女性になってもそのような存在なのかもしれない。
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