「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「勝手に決めるなよ」

 なんにせよ美月の夫は俺だ。

「トイレ行ってくる」

 立ち上がって扉に向かう俺の背中に笑い声が響いてくる。廊下に出て扉が閉まると、静けさに包まれて体温がすっと下がる感覚に襲われた。

 矢沢の言う通りだ。ひとりで帰宅して、いつも通り過ごしていたら美月に浮かない顔を見せていただろう。

 もしかして異様にしつこかったのは、それを見越していたからか? 考えすぎか……。

 洗面所で手を洗っているとスマートフォンが鳴り、嫌な予感がしてポケットから取り出す。

 仕事の電話だろうという予想は外れ、画面に表示された名前に驚いた。

 憲明さんだ。

「はい、巧です」

『久しぶりだな』

「ご無沙汰しております」

 美月と結婚する前に連絡し、それから数日に一度やり取りを重ね、先日婚姻届を提出した旨も伝えた。

『結婚おめでとう』

「ありがとうございます」

 メッセージでも祝辞を送ってくれたが、やはり直接聞けるのは嬉しい。
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