「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
『美月からは聞いていないのか』

「はい。本人に聞くのが筋でしょう」

『真面目だな。そうだな、どこから話そうか――』

 憲明さんは慎重に言葉を選びながら、ぽつりぽつりと当時について語ってくれた。

 美月が大学一年生の頃、被疑者の弁護をした裁判で、被告人側の恨みを買ってしまったそうだ。被告人の身内に家を特定されてからおよそ二年もの間、ずっと嫌がらせ行為を受けていたと。

 仕事ばかりで家庭を蔑ろにし、被害にあっているのを知ったのは聡子さんが心を壊して鬱病になってから。

 示談で済ませて解決はしたが、聡子さんの病状はそう簡単には回復しなかった。

 憲明さんは聡子さんに寄り添うなかで、もしかしたら自分がそばにいるせいで嫌な記憶から解放されないのではないかと考え始める。こんな事態に陥るまで気づけなかったことへの責任を感じ、また同じような被害に遭うのを防ぐために聡子さんと話し合って離婚を決めたという。

 それが聡子さんにとって最善の環境だと、憲明さんは信じている。
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