「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 憲明さんからの治療費を含めた生活の資金援助などのサポートを受ける聡子さんは、そういった心境を理解していて、心を完全に壊すことなくどうにか立ち直ったらしい。

『美月は父さんに怒っているんだろう。聡子より、美月の方が俺を避けているから』

 苦笑する声には悲しみが混じっている。

 美月が憲明さんの名前を口にした時、一度もマイナスな感情を滲ませたことはないはずだ。

「もう一度向き合ってみたらどうですか。俺にとって憲明さんは、今もカッコよくて憧れの人のままですよ」

 人生は山あり谷ありで、常に前向きでいられる人間はそういないだろう。憲明さんが離婚を通し、何年も後ろ向きになっているのは仕方がないけれど、時間がかかってでもいいからいつか自分でかけた呪いを解いてほしい。

『巧に諭される日が来るとはな』

「俺ももう三十三ですからね」

『大人になったなぁ』

 しみじみと噛みしめるような声音に、俺も月日の流れを感じて感慨深くなる。
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