「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「どれくらい冷やしてる?」

「二、三分くらいかと。そろそろいい気がします」

 その間ずっとふたりは手を……いや、だから、俺はなにを考えているんだ。

 チューハイを飲んでいるのだからいつもより注意力が散漫になってあたり前だ。美月の気丈さに甘えて無理をさせた結果がこれで。

 自分の不甲斐なさに苛立ちが募る。

 痕が残らないといいけれど。

 美月の白くて柔らかな肌を見つめていると矢沢が戻ってきた。もうすっかり調子を取り戻していて、朗らかな笑みを浮かべている。

「俺が続きやるよ。それで、食べたら帰ろうかな」

「えっ! それは申し訳ないです」

 動こうとした美月の手を力で押さえつけた。

 見たところ豚キムチ炒めのようだが、そんなもののために美月が手を煩わせる必要はない。

「任せて。俺こう見えて自炊してるし」

 眉尻を下げて、まるで捨てられた子犬のような顔をした美月が可愛い。思わず口元が緩みそうになり、「やらせておけ」と必要以上に低い声を出した。

 察しのいい矢沢なら、俺がまだ動揺を引きずっていると勘付いただろう。その証拠に、菜箸を動かす手をピタッと止め、俺をちらりとうかがった。

 今日は矢沢に感情的になって接してばかりだ。休み明け、笑いのネタにされること間違いないな。
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