「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「そうだといいな……」

 堰を切った美月ちゃんはしゃくりを上げて激しく泣き始めた。

 美月ちゃんにとって恋愛は、好きになったから付き合うという単純な行為ではないのだ。

 結婚適齢期の男女が向き合わなければならない部分なのは誰しも同じだが、彼女の場合そこに病気と妊娠出産が複雑に絡んでいる。

 少しでも美月ちゃんの心を楽にしてあげたい、助けたいと思うのに、相変わらず掛ける言葉は浮かばない。

 歯痒い焦燥感に駆られ、気づいたら彼女の身体を抱き寄せていた。感じた温もりに胸が熱くなり、肌に触れた柔らかさに庇護欲が全身に広がった。

 美月ちゃんの体温が馴染んできた頃、今の状況を俯瞰的に捉えてみる。

 無意識で触れてしまったことへの戸惑いよりも、美月ちゃんを守りたいという想いが上回っていて、抱きしめたことへ「やってしまった」という気持ちはない。

 制御できない激情に駆られたのは記憶にないくらい久しぶりだ。美月ちゃんといると普段の俺とは違う顔が出てくる。

 そもそも普段の俺ってどんな俺だろう。

 力を込めれば簡単に壊してしまいそうな美月ちゃんの背中をトントンと優しく叩きながら、様々な思考や感情を全身に巡らせた。

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