「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 店の外へ出ると夕暮れが始まっており、肌を撫でる風が冷たくて手で腕を擦る。

 九月下旬だもんね。日中はまだ半袖でいる時の方が多くても、夜から朝にかけては上着が必要だ。

 さてと、帰ろう。今日はなにを作ろうかな。

 歩き出したばかりの私の背中に「美月ちゃん!」と大きな声が飛んできて、驚いて振り返る。

 スーツ姿の矢沢さんが、右手をぶんぶんっと効果音がつきそうなくらい激しく振っていた。

「こんにちは。奇遇ですね」

「可愛い子がいるなーって思ったら、美月ちゃんだった」

 お酒が入っていてもいなくてもテンションは変わらないらしい。

「私は、元気な声だけで矢沢さんって分かりました」

「だいぶ俺のこと分かってきているねぇ。これから帰るところ?」

「そうです。矢沢さんはお仕事だったんですか?」

 警察官というと制服姿を想像してしまいがちだが、捜査一課の面々はスーツが基本なのだろう。こうしてみると、その辺りを歩いているサラリーマンとなんら変わりない。
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