「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「これから警視庁に戻るところ」

「お忙しいですね」

「報告するだけだから、すぐに帰れるよ」

 もうすぐ十九時になるので明らかに残業だ。巧さんから連絡は入っていなかったので、彼もまた帰りが遅くなるのだろう。

 巧さんは早く帰れる時だけ連絡をくれる。その時は一緒に夕食を食べて、連絡がなければ先にひとりで済ませている。一緒に暮らし始めて、ルールを決めたわけではなく自然とそうなっていった。

「この前は急に押しかけたうえに、遅くまでごめんね」

 矢沢さんは眉尻を下げて、しゅんっと反省している表情を作る。

「いえいえ、楽しかったです。よかったらまた遊びに来てください。その時はご馳走作りますので」

「ありがとう。じゃあ来月も行くわ」

 同時に声を上げて笑う。

 不思議な魅力を持っている人だ。年上の男性で、しかも警視正という肩書を持っているのに威圧感がない。緊張したのは出会った瞬間だけで、以降はずっと接しやすい親戚のお兄さんという感覚がある。
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