「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 石像になったかのように固まっていると、巧さんは物音ひとつ立てずに離れた。

 そわそわとして落ち着かず、両手を太腿の上で揉み合わせる。

「家に戻らない理由は?」

 何事もなかったかのように、いつもと変わらない声音で問われて拍子抜けした。

「えっと……」

 こちらは簡単に切り替えられずしどろもどろになった。姿勢を正して、残っている巧さんの余熱を無理やり頭から振り切る。

「ひとり暮らしをしているマンションに、彼の私物がたくさんあるんです。目にしたくないので、今日はあの家には戻りたくないんですよね」

 部屋の情景を浮かべるだけで辛さが胸を突き上げるのに、そこへ帰るなんて飛んで火にいる夏の虫だ。

 実家暮らしだと聞かされていたので、私が陽平の家に行ったことはない。だからこそ彼が置いていった物は多く、これからそれらを片付ける最後の仕事が残っていると考えるだけで再び涙腺が崩壊する。
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