「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「だいぶ遅くなったな。明日着る服はどうしようか。家に戻りたくないというなら――」

「明日はお休みを貰いました。足、病院に行った方がいいと思って」

「そうか。いい判断だ」

 さっぱりした返事に不思議な感覚に包まれる。

 陽平はどちらかと言うと女性寄りの性格で、言葉遣いや、纏う空気がふわふわして優しかった。巧さんは逆で、男性的で威圧感さえある。

 だからといって冷たいとか怖いなどの印象は受けず、包容力のある大人の男性として無意識に甘えそうになる。

 その中にやや強引さは残るものの、それすらも心地よく感じるというか。

「この部屋に泊まっていくのが一番楽なんだろうけど、あいにくベッドはひとつしかないし、それにホテルとなると誤解が生まれる」

 まだ決心がついていないのに話は着々と進んでいく。

 ちゃんと考えてくれているし、このまま流れに任せてもいいのかもしれない。

 二十三時は普段ならベッドに入っている時間で、そのせいか脳の動きが鈍くなっている。

 本音は今すぐにでも横になって休みたい。頼ってもいいかな……。

 弱気になった私の心を見透かしたように、巧さんはこちらの返事を待たずタクシーの手配をした。

 昔の知り合いのためにここまで動けるなんて凄い。

 その手際のよさにただただ尊敬の念を抱いてぼんやりしている自分を、どこか客観的に見ていた。

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