「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 タクシーに乗った時から部屋の鍵を解錠するまで、巧さんはほとんど口を開いていない。私も彼の背中について歩くだけだったので、頭の中で様々なことをぐるぐると巡らせていた。

「どうぞ」

 扉を開けた巧さんは先に私を中に入れる。タクシーの時もエレベーターの時も、一貫してリードしつつ女性を守ろうとする姿勢が素敵で、同じようにしていた父の姿が思い出された。

 父は元気にしているだろうか。家事は母に任せきりだったので、ちゃんと生活できているとは残念ながら思えない。仕事も忙しいはずだ。食事は取れているだろうか。

 玄関から中に入った瞬間、ふわっと優しく包んでくれるような心地いい香りに包まれて、反射的に鼻から空気を吸う。

「お邪魔します。いい匂いがする」

 ついて出た言葉に巧さんは「これかな」と、玄関にある棚に置かれた数々のディフューザーや香水瓶に目を走らせた。

 Richericheはフレグランスを取り扱っているので、香水好きの男性が意外と多いのは知っている。その点を踏まえても、五種類以上の瓶があるのを見て巧さんが香り好きなのが分かった。

 抱きしめられた時に香水の匂いはしなかったので、勤務中は控えているのかもしれない。
< 27 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop