「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「足、痛いだろう。余計なことは考えず、今日はただ身体を休めることだけに集中しろ」

 この短い時間接していて気づいたのだが、巧さんは時折、有無を言わさない空気感を出す。

 押し付けではなく、相手にとってそれが一番いいと判断し、提案しているのだ。もちろん私の想像にすぎないし、めちゃくちゃ分かりづらい気遣いだけれど、そう受け取れる。

 ここで引き返したら恩を仇で返すことになるし、巧さんの言うようにあれこれ考えず、彼の優しさに素直に甘えてみよう。

 それに、巧さんの気持ちは信用していいはずだから。

「ありがとうございます」

 ようやく靴を脱いで廊下へ進んだ私に、巧さんは微かに首を上下に振った。凝視しなければ見逃してしまうほどの動きだったので、もしかしたらもの凄く不器用な人なのかもしれない。

 頭をぱかっと開けたら、とてつもない量の感情や思考が飛び出してきたりして。

 ……さっきから巧さんのことばかり考えている。お父さんとどういうふうに関わってきたのかも興味があるし、今日をきっかけに、気軽に質問ができるくらいの関係になれたらいいな。
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