「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「顔洗っておいで」

「はい」と小さく返事をして洗面所を借りる。昨日ホテルのアメニティを持ち帰ったので必要最低限の準備は整った。後は服をどうにかしないといけない。

 リビングに戻るとダイニングテーブルに朝食の用意がされていて、四人掛けのダイニングテーブルに巧さんが腰掛ける。向き合う形で反対側に座ってから「いただきます」と手を合わせた。

 男性に料理を振る舞ってもらうのは初めてで、妙な胸の高鳴りがある。

 ここ数年はひとり暮らしだし、陽平にはもてなしてばかりだったから、誰かに尽くしてもらうのってこんなに幸せな気持ちになるのかと心が温かくなった。

 巧さんお手製のトーストは、食パンの上にトマトとチーズとバジルをのせて焼いたもので、マルゲリータのような味だ。

「凄いですね。私はこんな手の込んだもの朝から作れません」

「そんなたいしたものではない」

「いえ、凄いです」

 謙遜しているところに再度尊敬の眼差しを向けると、巧さんは「そうか」と今度は素直に受け止めた。

「十八の頃から自炊しているし、料理は好きな方だと思う。でも作るのは休みの日くらいだ」

 なるほど、と納得する。私はひとり暮らしをする準備期間に料理を覚えたが、巧さんは強制的に自分で作らないといけない立場に立たされたのだ。様々な部分で努力してきたはず。
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