「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 トーストを食べ終え、グラスの表面に水滴をつけている珈琲を喉に流し込んだ。

 コンビニやスーパーで売っているものとは違い香りと味に深みがある。

 ここまで美味しさが違うなら、私も自分で珈琲を入れるようにしようかな。でも巧さんに入れてもらったから美味しいと感じているのかも。

 互いに無理をして会話を続けようとせず、穏やかな朝のひと時が過ぎていく。


 私は沈黙が苦手ではない。巧さんも同じタイプな気がして、静けさが不思議と心地よかった。

 いつの間にか一時間が経っている。朝一で行くならそろそろ動き出した方がいい。

「あの、病院に行く前に、自宅に寄って着替えてから行こうと思っているんです」

「その格好ではさすがに外を歩けないよな。すぐ準備するから待ってて」

 席から立って食器を片付ける巧さんにならってキッチンのシンクにお皿を置く。

「私、洗います」

 これくらいはやらないと、と袖を捲り上げようとしたところできっぱりとした口調で断られた。

「そのままでいい。足に負担がかかるから、座って休んでいるように」

「……はい」

 気圧されて頷く。言われた通りにソファで休ませてもらいつつ、普段バッグに入れて持ち歩いているメイク道具でベースだけ整えた。

 髪はアイロンもコテもないので、ヘアゴムでひとつ結びにする。そこまで支度を整えたところで巧さんがリビングに戻ってきた。
< 37 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop