「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「お待たせ。出られるか?」

「はい」

「出る前に、湿布を新しいのに変えようか」

 眠る前に貼ったので冷たさはまったく感じなくなっている。病院に行くし、剥がして行こうとすら考えていた。

 ソファに座って湿布を持ってきてくれる姿を静観していると、おもむろに私の足元に跪いたので「え!」と慌てた。

 すると疑問符を浮かべた表情で見上げられ、思った以上に近い距離に顔があって心臓が早鐘を打つ。

「自分でできます」

「遠慮しなくていいから」

 胸がドキドキと激しく鳴って声が出せない。

 巧さんは壊れ物を扱うように私の足を自身の太腿にのせ、湿布をゆっくりと剥がしてから新しいものを優しく肌にのせた。

 感じた太腿の感触と、湿布の冷たさに肩を跳ねさせる。巧さんは手の動きを止めて上目遣いでこちらの様子を窺った。

 いい大人が大袈裟に反応して恥ずかしい。

 口をぎゅっと横に結んで沈黙を守っている私を数秒見つめた後、巧さんは全てのフィルムを剥がして片手でそっと押さえる。

 終始こちらを気遣う所作に、照れ臭さと嬉しさが入り混じってむず痒い。

「ありがとうございます」

「行こうか」

 立ち上がった巧さんは流れるような動きで、テーブルに置いてあった鍵と財布とスマートフォンを持つ。玄関へ向かう背中に続いて、まだ自身の鼓動を全身で感じながら外へ出た。
< 38 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop