「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 マンションの駐車場に停めてある巧さんの車は白色のセダン車で、部屋の中同様に車内もいい香りがした。

 私が口頭で伝えた住所を巧さんがナビゲーションに登録した後、車は滑るように走り出す。

 平日の通勤時間に誰かの運転する助手席に座るという非日常に、なんだか心がふわふわした。

 陽平と付き合っても平日にわざわざ休みを取ることはなかったし、本部勤めになってから土日以外に出掛けるのは久しぶりだ。

 風邪は引かないし、持病の定期検診以外で病院へ行くのも数年振りだ。

「彼の荷物はどうする予定?」

 前を向いたままの巧さんの横顔を見て、「うーん……」と力なく首を前に垂れる。

「住所は分かるか?」

「分からないです」

「だったら会社に送ろう」

「えっ」

 そんな手段があるのかと目を見開く。

「美月ちゃんの名前で送るのは危険だから、宛名は俺の名前にすればいい。住所は書かなくていい」

「そんなご迷惑をおかけするわけにはいきませんよ」

「人助けをするのが俺の仕事だ」

 こうも断言されると遠慮する方が失礼と受け止められる。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいますね」

 巧さんといると強がらなくていいし、安心できる。気持ちがとても楽だ。

 無意識に入っていた肩から力が抜ける。

 荷物についてどうすれないいのか判断がつかなくてずっと頭の片隅で悩んでいた。それをたった数秒で解決させてしまうなんて凄いな。
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