「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 こんなふうに自分について語ったのはいつ振りだろうか。美月ちゃんがごく自然に心を開いてくれるから、俺も普段は閉ざし気味の心を開くことができている。

 こういうところ、憲明さんに似ている。

 美月ちゃんの尊敬できる部分をまぶしく感じながら、心が満たされるささやかな時間にそこはかとない儚さを抱く。

 幸せな時というのは、どうしてこうも指の隙間からこぼれ落ちるような切なさを引き連れているのだろう。

 そう大きくはない声でゆっくりと話す美月ちゃんの話をもっと聴いていたかったが、残念ながら俺の住むマンションが視界に入ってきたので揺れる思考を外へ追いやった。

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