「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 周りを見回すと、好奇の視線が矢のように注がれていて猛烈な羞恥心に襲われた。ひとりの男性店員と視線が交わり、それを合図にこちらへやってくる。

 注意を受けることでこの場から解放されて、家に帰れるかもしれないと投げやりな感情が湧いた時だった。

「ほんっとうに、むかつく! もっとちゃんと謝りなさいよ! 人の旦那に手を出しておいて、知らん顔するなんてどういう神経してるの?」

 再び矛先を向けられて身体も心臓もビクッと震えた。

「あ……ごめんなさい」

「本当は少しも悪いと思っていないくせに!」

 誠心誠意の謝罪と受け取ってもらえず、私の発言で内村さんは目を吊り上げた。

 真実を目の当たりにして心を整理しようとしても、この状況で今すぐにはできない。そんな心の持ち方で謝罪をしたところで彼女には響かないのはあたり前だ。

「お客様、他のお客様のご迷惑になります。お静かにお願いします」

 店員の注意に誰も返事をしない。私は頭を下げて身体を縮こませる。

 陽平は間に入って私に説明しようという気はないの?

 内村さんからの威圧に委縮しながらちらりと陽平を見る。するとその視線にいち早く気づいた内村さんの怒りを更に買ってしまった。

 店員に促されて着席しようとしていたところだったのに、立ち上がってこちらへ足を踏み出し、私の両腕を掴んで無理やり立たせたかと思えば、息つく暇もなく流れるように押し倒した。

「ひゃっ」

 無防備に放り出された身体が床に落ちる前にどうにかしたかったが、時間にしたら数秒。どうにかできるわけがなく、カーペットの上に激しく叩きつけられた。
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