「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 部屋に入ってデスクチェアに腰掛けると、背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ。

 好きな食べものか。いくら考えても浮かばない。……ああでも、美月ちゃんの母である聡子(さとこ)さんが作ってくれたお弁当は美味しかったな。俺の母はキャリアを大切にしている忙しい人で、高校生の頃に弁当を作ってもらったことはなく、いつも購買でパンを買っていた。だから余計に手作り弁当というものに感動したのを覚えている。

 そういった記憶はきちんと頭に残っているのに、両親の笑った顔や優しい声を呼び覚まそうとした途端に霧がかかったようにあやふやになる。

 台風のように突如激しく襲う思い出もあるが、基本的にはだいぶ薄れており、それが寂しいような他人事のような二極分化しているのだ。

 あてもなくぼーっとしている自分にはっとして、深く考えるのはやめようと仕事用のソートパソコンを開き、昨日調査した事柄をまとめる作業に移った。

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