「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「じゃあ、食事以外にないですか?」

「そうだな……」

 お礼と言われてもなにかしてほしいことなどないし、それよりもどうやって美月ちゃんを引き留めるか、そればかりにしか思考が働かない。

 俺が考える素振りをすると、美月ちゃんは少しの間こちらに視線を注いでいたが、のんびり待とうと決めたのか再びヨガの体勢に入った。

 美月ちゃんにまだここにいてほしいというのは俺のエゴにすぎない。しかし彼女が明日には自宅に帰ってしまうのかと考えたら、猛烈な焦燥感に駆られて胸が苦しい。

 こんな感情を抱くようになるなんて。

 ざわつく心を落ち着かせるため、気付かれないように細く長い息を吐いた。速くなった鼓動を意識しないようにし、意を決して口を開く。

「それならひとつお願いしたいことがある。俺と結婚してくれないか?」

「けっ……こん?」

 美月ちゃんは声を裏返させて、謎のポーズをしたまま石像のように固まった。

 よくこんな体勢でいられるな。身体の柔らかさに驚かされる。

 プロポーズをしているにもかかわらず冷静さを保てているのは、勢いで口走ったというのもあるが、まだ自分でこの現状を受け止めきれていないからなのかもしれない。
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