「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 一緒に過ごしているうちに、美月ちゃんに好意を抱いている感情はさすがに自覚した。ただ両親を事故で亡くした時の喪失感はあまりにもひどく、二度と大切な人を失いたくない、自分になにかあった時に悲しませる人を作りたくないという思いから結婚はしないと心に誓った。

 そう決めた以上、気持ちに蓋をするべきなのだろう。だが美月ちゃんとはどうしても離れがたく、そばにいてほしいという欲を捨てられない。

「あの、巧さん。結婚って言いました?」

 思考に耽っていた俺に痺れを切らしたのか、美月ちゃんは居住まいを正していつもより低めの声音を出した。

 美月ちゃんの反応に心が波立つように揺れる。内側の想いをひた隠そうと、無表情に徹した。

「もう三十三なのだからと、周りから結婚を急かされているんだ。でも警察官という仕事はいつ緊急の呼び出しがあるかも分からないし、とにかく忙しい。だから自分の生活で手一杯で、恋愛をする余力がないし、そもそも結婚願望が全くないのに、見合い話を持ち掛けられることに嫌気がさしている」

 これは本当の話で、前々から頭を悩ませている。

 結婚をして家庭を持った方が社会的に信頼や信用は得られるし、周りの人間が言いたいことは分かる。ただ、俺には結婚できない理由が多過ぎるのだ。
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