「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 陽平に裏切られて今は恋愛をする気力がまったくない。時間が経てばまた変わるかもしれないけれど、自分のことであっても不明瞭だ。

 それでも結婚への憧れはあるし、いつかはしたい。だとしたら巧さんと契約結婚するのもいいんじゃないかな。

 どん底にいた私を助けてくれた巧さんへの恩返しという理由付けがあれば、お互いに気を遣わず契約結婚が成立する気がする。

 あまり自分のことを語らない巧さんがここまで本音をさらけ出しているのだから、本当に困っているのだと思うし、力になりたい。

 それに、かなり昔のこととはいえ、巧さんは素敵な人で憧れていた。大人になった現在は頼もしくて、一緒にいると安心するし、仕事にひたむきなところも尊敬できる。

 なにより巧さんとの暮らしは楽しくて居心地がよいし、自分をよく見せようと肩を張る気持ちにもならず、ありのままの自分でいられる。

「結婚、しましょうか」

 緊張して声が尻すぼみになった。巧さんは意表を突かれたように目を丸くした後、表情を柔らかくした。

 あまり感情表現を出さない人なので、分かりやすい反応に嬉しくなった。
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