「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 形はどうであれ私との結婚を望んでくれている。必要とされたことが、陽平との別れで傷ついた心を真綿で優しく包んでくれるようだった。

「ありがとう。助かるよ」

 助かる、か。愛のある結婚とは違うんだよね。

 結婚するからには巧さんをひとりの男性として愛せるように、彼との信頼関係を構築していきたい。巧さんはその辺りどう考えているのかな。

 契約結婚という特殊な関係を理解しているとはいえ、愛のない結婚生活を想像すると胸がかすり傷を負ったようにヒリヒリと痛む。

 簡単に決断するのはよくないのだろうか。

「でも、私でいいんですか?」

「美月ちゃんだから結婚を申し込んだんだ。誰でもいいわけじゃない」

 巧さんの本音に心臓が普段とは違う動きをする。それはドキッと跳ねるようなものではなく、トクトクと大きい音で拍動している感じだ。

 思わず胸に手をあてて小さく息をつく。

 うん、大丈夫そうだ、と自身を肯定する。今貰えた言葉だけで先ほどのかすり傷は癒えていくし、今さっきのことだからまだ気持ちの整理が出来ておらず、不安定になるのも無理はない。
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