「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「ヨガの邪魔をして悪かった」

「あ、いえ」

 もしかして胸に手をあてた動きをヨガの呼吸法だと勘違いしたのかな。

 なんとなくそういう流れになったので、全く集中できないけれどヨガの続きを再開することにした。

 巧さんはパソコンを触っていて、こちらからはなにを見ているのか分からない。

 結婚、本当にするんだよね。ふたりの空間にいつもとは違う妙な緊張感があるように感じるのは、私が意識し過ぎているせいなのか。

「美月ちゃん」

「はいっ」

 声が掠れてしまい、咳払いをする。

 びっくりした。急に声を掛けられて、しかも巧さんを凝視していたから視線が一直線に絡み合う。

「俺の方で改めて結婚後の生活について考えてみるから、美月ちゃんも要望点をまとめておいてほしい」

「要望?」

「婚前契約書というのは聞いたことある?」

 ちょうど少し前に、恋愛ドラマでその存在を初めて知った。

「結婚後の生活や、もし離婚することになった際に、トラブルを避けるための契約書ですよね」

「そうだ。俺たちは普通恋愛をして結婚をするわけじゃないから、きちんと取り決めた方がいいだろう」

 その通りなのだけれど、なんだろうこのざらざらした気持ちは。

「分かりました」

 返事をしてからも抱いた感情につける名前が見つけられなくて、ちっともヨガに身が入らなかった。

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