「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 口論を続けている陽平と内村さんの意識から、どうやら私はもう外れているようだ。

 ありがたいことに優しい店員が手を貸してくれたので、支えられて立ち上がると左の足首辺りに強い痛みが走った。

 思わず顔をしかめ、店員に「大丈夫ですか?」と余計な気遣いをさせてしまう。

「すみません。大丈夫です」

 強がったものの一歩踏み出す度に激痛が走り、全く前に進めない。

 見かねた店員の好意に甘え、なんとかレストランの外へ出ることができた。

 しつこいと思われるのを承知で改めて謝罪と感謝を伝えると、店員は怪我のことで必要性があれば証言するからいつでも声を掛けてほしいと、最後まで丁寧な対応をしてくれた。その優しさにまた涙がこぼれ落ちる。

 ひとりきりになって、店員に持っていっていいからと渡されたタオルで濡れた髪を拭く。

 今日のために買ったアイスブルーのワンピースに染みができていて、悔しいという新しい感情がじわじわと胸に広がった。

 内村さんが突然休職すると耳にした時、何か事情があるのだろうと気にも留めていなかった。

 まさか妊娠して、結婚して、相手が陽平だったなんて。

 同じ会社であっても店舗と本部では接点はほとんどないし、結婚はおろか交際していることも知らなかった。

 どちらにもいい顔して、美味しいとこ取りをして、最低な男だ。
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