「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 上を向いて深呼吸をした後、企画書に目を落とす。現在携わっているプロジェクトは先月スタートしたばかりで、ここから数カ月かけて形にしていく。

 有名なキャラクターを扱った食器のシリーズを展開する予定で、関わる企業は数社にのぼる。商品開発と並行して、ナショナルブラン
ド商品の仕入れやプロモーション計画などを進行していくので、やらなければならないことはとにかくたくさんだ。

 バイヤーである陽平とは、仕入れ原価はいくらなのか、どのくらいの量を仕入れるのかというやり取りを行っていかなければならない。

 Richericheで働く限り陽平と顔を合わせ続けるんだよね。どちらかが部署異動を命じられる可能性は大いにあるが、ないかもしれない。

 付き合っていた頃、お互いの将来のビジョンを語り合った時に転職は考えていないと陽平は口にしていた。

 まあ、仕方ないか……。陽平を理由にして自分の職場環境を変えたくないし、私だってキャリアアップを目指している。Richericheは私の大切な居場所のひとつだ。

 ふと、視界の隅に早歩きする姿が映り顔を上げる。麻美だ。

「おはよう。ちょっといい?」

 こちらの返答も待たず私の腕を掴んで引っ張った麻美は、フロアの時計を見やる。

 私もつられて視線を追うと、始業時刻まであと十分を切っていた。ぱっと手を離して廊下へと突き進む麻美の背中に続く。
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