「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 思考が頭の中でぐるぐる回って動けずにいると、若い男女が笑い声を上げながらレストランへ向かってきて我に返った。

 みすぼらしい姿を晒さなければいけない羞恥心に包まれて、ふたりの横を通りすぎてからそっと息をつく。

 こんな格好でホテルのロビーを歩かないといけないのか……。

 絶望してエレベーターのボタンを押し到着を待つこと十数秒、目の前で開いた扉の先に長身の男性が現れた。

 人ひとりにすら会いたくないのに、ついていない。

 他人だとしても情けない自分の姿を見られたくないので、たったこれだけのことでマイナス思考になる。

 エレベーターの中から出やすいよう脇にそれると、男性は何故か私の前で立ち止まった。

 この滅茶苦茶な格好に対して何か言われるのではないかと身構える。

 アルコール臭かったりするのかな。そうだとすればタクシーでも嫌な顔をされそうだ。


「人違いだったらすみません。もしかして、美月ちゃん?」

「え?」

 予想の斜め上を行く出来事に時が止まったかのように呆けた。まじまじと男性の顔を見つめる。
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