死神×少女
「な、なんでグリアくんが亜矢の部屋にいるの!?」

予想通りに目を丸くして驚く美保に、亜矢は覚悟を決めた。

「美保、違うの!これには深い訳がっ…!」

とは言っても、もちろん全てを話す気などはないが。

「も、もしかして……」

美保はグリア、コランの順に視線を移す。

「もしかして、コランくんは亜矢とグリアくんの子供なのっ!?」

あまりにも飛び抜けた美保の発言に、ズコっとコケる亜矢。
キョトンとしているコラン。ただ目を見開いているグリア。

「そ、そんな訳ないじゃない〜〜!!」

よく考えてみれば、高校生なのにこんな大きな子供がいるはずないのだが。
時々、冗談なのか本気なのか分からない発言をする美保。
それでも、彼女の瞳はいつも純粋だから受け止める方としては困る。

「いいのよ、亜矢!美保は亜矢とグリアくんの事、応援してるからね!」
「だ、だから…!それも違うわよ!」

どうも、前の事から美保は亜矢とグリアの仲を勘違いしているようだ。
不本意だが、変に言い訳をするくらいならそう思われる方が都合がいいかもしれない。
と、亜矢は思ってここは強く否定せず諦めた。本当に不本意なのだが…。

「それで美保、どうしたの?こんな時間にウチに来るなんて」
「あ、うん……。ちょっと聞きたい事があって」

ちょっと悲しそうに目を伏せた美保。
これは何か深刻な相談かなと思った亜矢は、とりあえず美保の話を聞く事にした。

「あ、でもグリアくんもいるし、私は邪魔だったかしら?」

勘違いして、変に気を遣う美保。

「いいのよ、邪魔なのは死神の方なんだから!」

グリアに対してたっぷりと皮肉を込め、それに対し睨んでくるグリアを軽く無視して、亜矢は美保を自分の部屋へと上がらせる。
と、言う訳で亜矢の部屋には美保を加え、さらに賑やかになって4人。
亜矢と美保が向かい合ってテーブルに座る。コランはもちろん、亜矢の隣に着席。
そして、部屋の隅のソファに寝転がり、すっかりくつろいでいるグリア。
夕飯が済んだのならさっさと帰ればいいのに、と亜矢はグリアを横目で見つつも、美保に視線をもどし、真剣に聞く体勢になる。

「それで美保、聞きたい事って?」
「うん、リョウくんの事なんだけど…」
「リョウくん?」

意外な人物の名が出て、亜矢は思わず聞き返す。

「リョウくん、何か悩みとかあるのかなぁって思って」

これまた、意外な言葉だ。
一瞬、その言葉に反応してグリアの瞳が僅かに揺らいだ。
亜矢はリョウの事を思い浮かべてみるが、思い出すのは彼の笑顔ばかり。
いつも穏やかに笑っている天使の彼に、悩みなんてあるようには見えないが。

「リョウくんに悩みがあるとは思えないけど、どうして?」

「時々…、リョウくん、とても悲しそうな顔するのよ。ううん、悲しいというか、とても辛くて苦しそう。悩みじゃなかったら、何か持病とか…」

天使に悩みや持病なんてあるのかなあ、と亜矢は聞きながら思いつつ。
それにしても、リョウがそんな顔をしている事なんて見た事がなかった。
いや、気付かなかった。
リョウに憧れている美保の事。きっと、誰よりもリョウの事をよく見ているのだろう。
亜矢はちょっと感心したが、リョウの事については何も原因が思い付かない。
思えば、亜矢はリョウの事を良く知らない。彼の正体が天使だという事だけ。

「亜矢はリョウくんのお隣さんだし、何か知ってるかな〜と思って来たんだけど」

本気でリョウの心配をしているらしい美保に何か協力出来ないものかと、亜矢はふと、ソファで寝転がっているグリアに視線を移す。

「死神、何か知らない?」

すると、グリアはだるそうに顔だけをこちらにゆっくりと向けた。

「ああ?知るかよ」

この話に感心がないと言うよりは、関わりたくない、と言った顔だ。
少なくとも、グリアなら少しでもリョウの事を知っていそうなものだが。
結局答えは出ないまま、美保はしばらく亜矢とおしゃべりをして帰って行った。
グリアも自分の部屋に戻り、部屋には亜矢とコラン。

(リョウくんかぁ……)

亜矢は風呂上がりの髪をとかしながら、さっきの美保との会話を思い返していた。
明日からはもう少し注意深くリョウの事を見てみようと思った。

「なあ、アヤは死神と天使の兄ちゃん、どっちが好きなんだ?」

パジャマ姿でベッドの上でゴロゴロしていたコランが、無邪気に聞いた。

「こっ!コランくんまで……!そんなんじゃないってば!……もう」

亜矢は少し頬を赤らめながらベッドまで歩くと、横になっているコランのすぐ横に腰を下ろす。
そうするなり、コランはバっと勢いよく起き上がり、亜矢に抱きついた。

「オレは、アヤが好きだ!」
「えっ!?」
「アヤの側は居心地いいから、オレ好きなんだ!」

大きな赤の瞳を一杯に開いて、抱きつきながら亜矢を見上げる。

「コランくん……」

えーと、これは告白というのだろうか?と亜矢は思いつつも、幼いながらも純粋で真直ぐなその気持ちがどこかくすぐったくて、微笑み返す。

「おやすみ、アヤ……」

こうして、小悪魔は今日も亜矢の温もりに抱かれながら眠りにつく。
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