死神×少女
放課後の教室。
夕焼け色の陽が窓から差し込み、誰もいない教室をオレンジ色に染めている。
いや、その教室の窓の前に立ち、空を見上げている少年が一人。
遥か彼方を見つめ、何を思うのか。
彼の瞳からも、背中からも、その心は読めない。
「まだ教室にいたのね、リョウくん」
静寂の空間となった教室に、響くその声。
窓の外を見上げていたリョウが静かに振り向く。
「亜矢ちゃん」
ゆっくりと歩み寄る亜矢をリョウは目で追う。
「一緒に帰ろうと思って外で待ってたんだけど、全然来ないからちょっと心配しちゃったわ」
死神を撒いて来たのよ、と亜矢は小さく舌を出して笑った。
「そうなんだ…ゴメン」
小さくそれだけ言うと、リョウは再び窓の外に視線を戻す。
亜矢はリョウのすぐ隣に立つと、同じようにして空を見上げる。
「空を見てたの?天界とか、故郷の事とか思ってた?」
亜矢のその言葉に、リョウは少し驚いた風にして亜矢の横顔を見つめ、顔を伏せる。
「ううん、そういう訳じゃない…よ…」
どうした事か、リョウはいつものような笑顔を見せない。
今なら、美保が言った言葉の意味が分かる。
リョウの寂しそうな……いや、悲しみが確かに、どこからか伝わって来る。
「あなたの事を心配している人がいるのよ」
「ボクを?」
「ええ。あたしも今、ちょっと心配になったけど」
「……………」
伏せたリョウの顔は彼の水色の髪に埋まり、その表情が隠れる。
そして、小さく発せられた言葉。
「どんなに隠しても、いずれは気付かれちゃうものなのかな……」
「え?」
何か、深い意味をこめているように聞こえた言葉に、亜矢は聞き返す。
「あ—……、大丈夫よ、誰もリョウくんが天使だなんて気付かないわ」
リョウが言いたかったのはその事ではないと分かりつつも、亜矢はあえてそう返した。
「この学校の女子にとっては、別の意味でリョウくんは天使に見られてるみたいだけど」
そう言って亜矢は笑うが、リョウの瞳には暗い影が映っている。
それは、時間と共に夕焼け色から闇に染まっていく空の色に比例しているようで。
「ボクは天使なんかじゃないよ」
それは、自らを天使と名乗って現れたリョウの口から出る言葉としては、意外だった。
深く読めば、自らの存在を否定したとも言える発言。
「あなたが何者であっても、あたしはリョウくんを信じているわ」
「!」
リョウは顔を上げた。
さっきから目を合わせようとしなかったリョウが、亜矢の顔を驚きの目で見つめる。
「なんで?…なんで、ボクを?」
問いかけるリョウに対し、亜矢は窓の外の空を見上げ、遠くを見つめながら返す。
「なんでかしら。死神から与えられた、この心臓の力なのかしら。人の本当の心が分かるというか、伝わってくるのよ。リョウくんは信じていい人だって」
少し前に、リョウから『魂の器』についての話を聞いた時に、彼はグリアも亜矢も救うつもりだと言った。
その言葉を、亜矢は信じている。彼が天使だからという訳ではない。
彼の純粋な想いと意志を確かにこの心臓は受け止めた。
夕焼け色の陽が窓から差し込み、誰もいない教室をオレンジ色に染めている。
いや、その教室の窓の前に立ち、空を見上げている少年が一人。
遥か彼方を見つめ、何を思うのか。
彼の瞳からも、背中からも、その心は読めない。
「まだ教室にいたのね、リョウくん」
静寂の空間となった教室に、響くその声。
窓の外を見上げていたリョウが静かに振り向く。
「亜矢ちゃん」
ゆっくりと歩み寄る亜矢をリョウは目で追う。
「一緒に帰ろうと思って外で待ってたんだけど、全然来ないからちょっと心配しちゃったわ」
死神を撒いて来たのよ、と亜矢は小さく舌を出して笑った。
「そうなんだ…ゴメン」
小さくそれだけ言うと、リョウは再び窓の外に視線を戻す。
亜矢はリョウのすぐ隣に立つと、同じようにして空を見上げる。
「空を見てたの?天界とか、故郷の事とか思ってた?」
亜矢のその言葉に、リョウは少し驚いた風にして亜矢の横顔を見つめ、顔を伏せる。
「ううん、そういう訳じゃない…よ…」
どうした事か、リョウはいつものような笑顔を見せない。
今なら、美保が言った言葉の意味が分かる。
リョウの寂しそうな……いや、悲しみが確かに、どこからか伝わって来る。
「あなたの事を心配している人がいるのよ」
「ボクを?」
「ええ。あたしも今、ちょっと心配になったけど」
「……………」
伏せたリョウの顔は彼の水色の髪に埋まり、その表情が隠れる。
そして、小さく発せられた言葉。
「どんなに隠しても、いずれは気付かれちゃうものなのかな……」
「え?」
何か、深い意味をこめているように聞こえた言葉に、亜矢は聞き返す。
「あ—……、大丈夫よ、誰もリョウくんが天使だなんて気付かないわ」
リョウが言いたかったのはその事ではないと分かりつつも、亜矢はあえてそう返した。
「この学校の女子にとっては、別の意味でリョウくんは天使に見られてるみたいだけど」
そう言って亜矢は笑うが、リョウの瞳には暗い影が映っている。
それは、時間と共に夕焼け色から闇に染まっていく空の色に比例しているようで。
「ボクは天使なんかじゃないよ」
それは、自らを天使と名乗って現れたリョウの口から出る言葉としては、意外だった。
深く読めば、自らの存在を否定したとも言える発言。
「あなたが何者であっても、あたしはリョウくんを信じているわ」
「!」
リョウは顔を上げた。
さっきから目を合わせようとしなかったリョウが、亜矢の顔を驚きの目で見つめる。
「なんで?…なんで、ボクを?」
問いかけるリョウに対し、亜矢は窓の外の空を見上げ、遠くを見つめながら返す。
「なんでかしら。死神から与えられた、この心臓の力なのかしら。人の本当の心が分かるというか、伝わってくるのよ。リョウくんは信じていい人だって」
少し前に、リョウから『魂の器』についての話を聞いた時に、彼はグリアも亜矢も救うつもりだと言った。
その言葉を、亜矢は信じている。彼が天使だからという訳ではない。
彼の純粋な想いと意志を確かにこの心臓は受け止めた。