死神×少女
再びリョウに顔を向けると、リョウはその瞳を微かに潤ませながら、何かを懸命にこらえているようだった。
それは、涙でも、悲しみでもない。リョウの強く握られた拳が、僅かに震える。
「……リョウくん?」
亜矢が不思議に思うと、リョウは一度目を閉じ、少しして決心したように目を開く。
「亜矢ちゃん……ボクは、本当は……!」
そう言いかけた時だった。
「ここにいたのかよ、亜矢」
リョウの言葉を遮るかのように教室に響いて来た、もう一つの声。
亜矢とリョウがハっとして振り向くと、教室のドアにグリアが立っていた。
相変わらず、不機嫌そうな顔をしてはいるが。
「もうすぐ『命』が切れる時間だろうがよ?ったく、わざわざ捜して来てやったんだぜ、感謝しな」
亜矢は少しムっとしたが、彼の言う事はもっともな事だった。
亜矢はリョウに向かって「じゃあ、お先に」と優しく言うと、グリアの元へと歩く。
グリアと亜矢は何かを言い合いながら教室を出て、その声はやがて廊下の先へと小さくなり、消えていった。
再び、静寂の中に一人、残されたリョウ。
窓から差し込む夕日を背中に浴びながら、呆然と立ち尽くす。
未だに、その両手の拳は握られたままだ。
(ボク、今………)
さっき、リョウが亜矢に言いかけた言葉。
塞がれたその言葉の続きが、リョウの中で封じられる事なく、なお駆け巡る。
亜矢に、全てを打ち明けようと思った。
何故、そう思ってしまったのか。感情に流された、というだけではない。
リョウの中で、葛藤が生まれる。
その時だった。
リョウの全身から、突然、何かの強烈な力が集約し始めた。
それは、光を伴った突風のような力。
ガタガタッ!!
教室内のいくつもの机が、その力を受けて音を立てて弾け、乱れていく。
「く……うっ!!」
リョウは、すぐ近くの机に両手を付き、上半身を伏せる。
苦しそうに息を荒くつき、両目の瞼を力の限り閉ざす。
リョウの背中にその光が集まったかと思うと、次の瞬間。
バサッ!!
リョウの背中から、一対の大きな翼が出現した。
天使の羽根である。
普段は自らの意志で羽根を隠してはいるが、今は何かの力の働きにより、その羽根を強制的に晒される形になった。
人間界に降りてから、亜矢にもグリアにも見せる事が無かったリョウの羽根。
天使の羽根と言えば、普通は純白というイメージがあるだろう。
だが、リョウの羽根は、左翼は純白であったが………
もう片方の羽根、右翼は——黒く染まっていた。
いや、正確には完全に黒ではない。僅かに、白い羽根も残っている。
「う……あ…あ!」
リョウの苦痛の叫びが、誰にも届く事なく教室に響く。
その苦痛に伴い、右翼の残された白の部分が、だんだんと黒く滲んでいく。
白が、黒に侵食されていく。
蝕まれていく自らの羽根に目を向ける事なく、リョウは顔を机に伏せたまま耐えている。
その額から、汗が伝い流れていく。
ようやく、侵食はある程度で止まったが、リョウの中で何かの声が響く。
それは、リョウの天界での記憶とも重なる。
『我が忠実なる天使………』
その声はリョウの視覚、聴覚を全て支配する。意識がもうろうとする。
『背けば、苦痛となるだけ……』
リョウは薄く目を開け、そして………荒い呼吸の合間から、小さく言葉を漏らした。
「ボ……ク…は………」
視界に映るのは、乱れた机といつもの教室。
リョウはようやく立ち上がり、そして再び、闇色に近付いた空を窓から見上げた。
それは、涙でも、悲しみでもない。リョウの強く握られた拳が、僅かに震える。
「……リョウくん?」
亜矢が不思議に思うと、リョウは一度目を閉じ、少しして決心したように目を開く。
「亜矢ちゃん……ボクは、本当は……!」
そう言いかけた時だった。
「ここにいたのかよ、亜矢」
リョウの言葉を遮るかのように教室に響いて来た、もう一つの声。
亜矢とリョウがハっとして振り向くと、教室のドアにグリアが立っていた。
相変わらず、不機嫌そうな顔をしてはいるが。
「もうすぐ『命』が切れる時間だろうがよ?ったく、わざわざ捜して来てやったんだぜ、感謝しな」
亜矢は少しムっとしたが、彼の言う事はもっともな事だった。
亜矢はリョウに向かって「じゃあ、お先に」と優しく言うと、グリアの元へと歩く。
グリアと亜矢は何かを言い合いながら教室を出て、その声はやがて廊下の先へと小さくなり、消えていった。
再び、静寂の中に一人、残されたリョウ。
窓から差し込む夕日を背中に浴びながら、呆然と立ち尽くす。
未だに、その両手の拳は握られたままだ。
(ボク、今………)
さっき、リョウが亜矢に言いかけた言葉。
塞がれたその言葉の続きが、リョウの中で封じられる事なく、なお駆け巡る。
亜矢に、全てを打ち明けようと思った。
何故、そう思ってしまったのか。感情に流された、というだけではない。
リョウの中で、葛藤が生まれる。
その時だった。
リョウの全身から、突然、何かの強烈な力が集約し始めた。
それは、光を伴った突風のような力。
ガタガタッ!!
教室内のいくつもの机が、その力を受けて音を立てて弾け、乱れていく。
「く……うっ!!」
リョウは、すぐ近くの机に両手を付き、上半身を伏せる。
苦しそうに息を荒くつき、両目の瞼を力の限り閉ざす。
リョウの背中にその光が集まったかと思うと、次の瞬間。
バサッ!!
リョウの背中から、一対の大きな翼が出現した。
天使の羽根である。
普段は自らの意志で羽根を隠してはいるが、今は何かの力の働きにより、その羽根を強制的に晒される形になった。
人間界に降りてから、亜矢にもグリアにも見せる事が無かったリョウの羽根。
天使の羽根と言えば、普通は純白というイメージがあるだろう。
だが、リョウの羽根は、左翼は純白であったが………
もう片方の羽根、右翼は——黒く染まっていた。
いや、正確には完全に黒ではない。僅かに、白い羽根も残っている。
「う……あ…あ!」
リョウの苦痛の叫びが、誰にも届く事なく教室に響く。
その苦痛に伴い、右翼の残された白の部分が、だんだんと黒く滲んでいく。
白が、黒に侵食されていく。
蝕まれていく自らの羽根に目を向ける事なく、リョウは顔を机に伏せたまま耐えている。
その額から、汗が伝い流れていく。
ようやく、侵食はある程度で止まったが、リョウの中で何かの声が響く。
それは、リョウの天界での記憶とも重なる。
『我が忠実なる天使………』
その声はリョウの視覚、聴覚を全て支配する。意識がもうろうとする。
『背けば、苦痛となるだけ……』
リョウは薄く目を開け、そして………荒い呼吸の合間から、小さく言葉を漏らした。
「ボ……ク…は………」
視界に映るのは、乱れた机といつもの教室。
リョウはようやく立ち上がり、そして再び、闇色に近付いた空を窓から見上げた。