死神×少女
その頃のグリアと亜矢は昇降口を出ようとした所だった。

「………我慢すんなよ」
「…な、何がよ?」
「命が切れかかってんだろ?苦しそうだぜ」

平然に振る舞ってはいたが、亜矢は息苦しそうに呼吸を荒くしている。

「口移ししてやるよ、来な」

そう言ってその場で亜矢の肩に手をかけるグリアだったが、亜矢は勢いよくその手を払った。

「い、いやよ!学校でなんて!せめて、家に着いてから…!」

そんな事で意地を張る亜矢に、グリアの苛立ちはさらに増す。

「それで死んだら次はねえんだよ!バカが、つべこべ言うんじゃねえ!」

それでも必死に首を横に振る亜矢。

「ちっ……!」

グリアは亜矢の手首を掴むと、引張るようにして歩き出す。

「ちょ、ちょっと?」

グリアに誘導されて辿り着いたのは、校舎の裏だった。
さすがに時間が時間だけあって、薄暗い。

「要は、人目につかなきゃいいんだろ?」

亜矢は、無言で目を伏せた。
拒否する理由がなくとも、素直に受け入れる気なんて元々ない。
だが、亜矢の沈黙は、グリアにとっては『了承』の意。
それは、何時の間にか二人の間に出来た、暗黙の了解みたいなもの。

「ったく、手間かけさせやがって…」

こうして、ようやく『口移し』が行われる。
その時。

「ククク……ようやく現場を押さえた」

物陰に隠れていたらしい人影が、薄暗闇の中から姿を現した。
亜矢はバっと反射的にグリアから離れ、その人影に目をこらす。

「あなたは…!!」

二人の目の前に現われたのは、制服を着た巨体の男。

「なんだ、てめえは」

グリアが鋭い目で睨む。

「風紀委員の鷲尾よ……!」

亜矢が、グリアにだけ聞こえるように小声で囁いた。

「不純異性交遊とは良くないな。これが学校側に知れたらお前達はどうなるかなあ?」

余裕の笑みを浮かべながら言う鷲尾の言葉に、亜矢も強く睨み返す。

(コイツ……脅しをかける気!?)

強気な亜矢は堂々たる態度で鷲尾に言い返そうとするが……

「おっと、無駄だ。証拠はあるんだ」

鷲尾の手には、デジカメが握られている。
『口移し』の瞬間を撮られたのだろう。

「お前達をマークしていたかいがあったぞ」

クっと歯を食いしばり、拳を握り、亜矢はその場に立ち尽くす。どうも出来ない。
立場的にも力的にも、亜矢は鷲尾に勝てないだろう。

「クク……黙ってやっててもいいんだぞ?その代わり、代償は払ってもらおうか。そうだな、明日までに金を………」

鷲尾が本格的に脅しにかかろうとした時。
表情すら変えずに沈黙していたグリアが、突然に動きだした。
大きく横に片手を振ると、その手に『死神の鎌』が出現した。

「………死神っ!?」

亜矢がとっさに叫ぶが、グリアにはもはやその声は届かない。

「っ……な、なんだ貴様、その刃物はぁっ!?」

さすがの鷲尾も、その鋭い刃物を構えるグリアの尋常でない目に怯えた。

「………こっちは、長い事魂喰ってねえからイラついてんだよ…!!」

グリアは低く言うと、鎌の刃先を鷲尾に向けて、狙いを定めた。

「な、何言ってるんだ貴様…!!そんな刃物で、な、なにを……」

鷲尾が後ずさるが、グリアには逃す気がない。
刃先を突き付け、じりじりと追い詰める。

(死神、まさか鷲尾の魂を狩る……気!?)

しかし、意に反して亜矢は声が出せなかった。全身が震えている。

「だ、ダメよ……死神…………」

本当は叫びたいくらいなのに、喉の奥が震えて、小さな囁きにしかならない。
今、自分が叫んだ所で、死神は止まりはしない事も分かっている。

「決まってんだろ、………死ね!!」

その声と共に、グリアは鷲尾の胴体目掛けて鎌を大きく振った。

「う、うわあああっ!!」
「……いやあっ!!」

鷲尾の叫びと、亜矢の叫びが同時に重なる。
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