死神×少女
「ねえ、どういう事!?あんなの…いつものリョウくんじゃないわっ!!」

亜矢は声を振り絞り、叫ぶ。

「あんた、今までリョウの羽根を見た事がねえのに、なんで奴を天使だと思い込んでいた?」

グリアから突然に切り出されたその質問。
亜矢は動揺しつつも、今までを思い返す。

「そ、それは……何となく、そうなんだと……リョウくんの言葉を信じてたから」

「それが、天使の特性なんだよ。人を無条件に信用させる、やっかいな力だ。ずっと惑わされてんだよ、てめえはリョウに」

亜矢は目の前の現実に、息が止まりそうになった。
震えが止まらない。

「どうして、どうしてこんな事に……?」

今まで亜矢に、笑顔ばかり向けてきたリョウ。
優しくて、でも強い意志を持ってて。いつでも心強い味方だった。
彼を、本気で信じていた。

『話してやるがいい、リョウ』

3人が立つこの空間に、どこからかもう1つの声が響いてくる。
その声は、グリアにも亜矢にも認識できた。

「え?なに……この声?」

亜矢が呟くと、隣のグリアが構え、声を低くして言う。

「出やがったな、天王…!!」

姿こそ見えないが、憎悪をこめてグリアはその名を吐き出す。
その中でリョウは1人、一切の感情を表さずに、ただ静かに口を開く。

「ボクの使命は、『魂の器』を完成まで導き、その魂を手に入れる事」

そこまでの言葉で、亜矢は思わず言葉を挟んだ。

「それって……それって、最初から、死神も…あたしも……見殺しにするつもりだったって………事……?」

自分で言ってて辛い。
今の亜矢には、真実をそのまま口に出すだけで精一杯だった。
理解するなんて、受け入れるなんて無理だった。

「そういう事らしいぜ。少なくとも、天界の王は、な」

グリアが、『天界』という言葉に憎しみをこめて言う。
死ぬ予定でない人間の魂を狩る、という重罪を犯す死神が増えていく中で、天界に納めるべき魂の数が著しく減少してきている。
そこで、天界は魂の数の調整を行う事にしたのだ。
『魂の器』によって膨大な力を宿した亜矢の魂には、普通の人間の魂の何百倍に相当する価値がある。
それを手に入れ、調整を図ろうとした。
それによってさらに、『魂の器』の儀式を行える程の力を持つ死神グリアを消滅させる事が出来るのなら、天界にとってこんなに都合がいい事はない。
強大な力を身に付けた死神グリアは、今では天界にとって脅威なのだ。

『お前ほどの死神だ、こちらも優秀な天使で迎え撃つしかあるまい?』

あざ笑うかのように、天王の声のみが空間に響く。

「そんなの、どうでもいいわ。リョウくん、言ったじゃない…!死神とあたしを絶対に救うって!あの日に……言ってくれたじゃない……」

亜矢の目に、涙が溢れる。
グリアは初めて知って驚いた。リョウのヤツがそんな事を言ったのか、と。

「無駄だぜ。あいつは今、完全に心を支配されてやがる。……やっかいな呪縛をかけられたな、あのバカが」

冷たい言い回しだが、グリアもどこか辛そうだった。
グリアと出会った事により、リョウは天界への反抗心を膨らませ、天界に背き、天界の王から処罰とも言える呪縛を受けた。
その結果が、目の前にいるリョウの姿。

「リョウ……。てめえ程のヤツが、天界の下僕に成り下がるとはな……!!」

グリアが小さく漏らした言葉。
この言葉で初めて、グリアはリョウを認めていたという事が分かる。
あれだけグリアが毛嫌いしていた天界の者でも、リョウは別だったのだ。
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