死神×少女
リョウにとって、亜矢との1年とは。
1年間、呪縛に苦しみながらも自分を保って亜矢の側に居られた事。
そんな自分を最後まで信じてくれた事。救ってくれた事。
いつ命が尽きるか分からない不安定な心臓を持ちながらも、いつも笑顔と命の力を輝かせて、眩しいくらい自分に向けていた。
もし、こんな形なんかではなく出会っていたら、もしかしたら自分は素直に——。

コランにとって、亜矢との1年とは。
温かくて、優しい毎日だった。
小悪魔である自分に何の抵抗もなく接し、抱きしめてくれた。
そして、何の戸惑いもなく自分に『命の力』を与え続けてくれた事。
コランは知っていたのだ。
いつもコランは先に眠ってしまうが、亜矢はベッドに入ると必ずコランを優しく抱きしめて眠ってくれるという事。
この嬉しい気持ちと心地よさ。
自覚こそないが、亜矢はコランにとって初めての。そう、初めての——。

「グリア、ボクは……!!」
「死神の兄ちゃん、オレ……!!」

リョウとコランが同時に、何かを言おうとした。
だが、グリアがその言葉を塞ぐかのように2人を振り返った。
何かの強い意志を秘めて。そして、2人の意志を受け止めて。

「泣いてもどうにもならねえ。だから、てめえら……オレ様に力を貸せ。いや……貸してくれ」

グリアの口から出たのは、今までにない懇願の言葉。
その言い回しからも、グリアが今、本気で何かが必要で、望んでいる事が分かる。
人に譲ったり、屈したり、願いを乞う事。
グリアという死神の中に、それらは存在しないはずだった。
リョウは驚き瞳を見開くが、返事の代わりに強く見返す。

「……どうするの?」

グリアは、自分の首元に手を当てた。
そこには、大きな赤い宝石のついたペンダント。
グリアが常に、その首に身につけていたもの。

「この石の中には、今までオレ様が魂を喰らった人間の命の力を封じてある。これを全て解放する事によって、オレ様はあの時完全には消滅しないはずだった。……まあ、確信はねえが」

グリアは、『魂の器』が完成された後、自分自身を消滅させない為にすでに策を用意していたのだ。
だが、それを使うタイミングを逃した為に、あの時グリアは消滅しかけた。

「この石の力を、今度は亜矢の蘇生の為に解放する。だが、下手すりゃ失敗どころかオレ様自身が消し飛ぶかもな?」

「えっ!?だってグリアは、永遠の命を…!!」

リョウが別の部分で驚きに声を上げる。

「永遠の命を手に入れる方法なんざ、存在しねえよ」

リョウは言葉を止めた。それが、リョウすら知らなかった『魂の器』の真実だった。
グリアは亜矢を生き返らせる為だけの理由で、1年間儀式を行ったのだ。
そんな中、コランは純粋にグリアの言葉を受け止める。

「なあ、アヤを生き返らせる事が出来るのか!?だったらオレ、何でもする!!」

リョウはそんなコランを見て、軽く微笑んだ後、グリアを見た。

「ボクも協力するよ、グリア」

グリアは何も返さなかったが、小さく口元で笑った気がした。
死んだ人間を生き返らせる事。
それは、この世に存在する中で最大の禁忌。
しかし、死神と天使と悪魔が力を合わせた時、何が起こるのかは——誰も分からない。
前例がないからだ。
全く異なった、相反する種族同士の力の融合。
それによって得られる力と、代償として失うものは何か。
グリアはペンダントから宝石を取り外した。
赤い宝石はグリアの手から浮き、離れて僅かに輝きながら亜矢の胸の上で位置を留めた。
リョウが、その宝石の上に手を乗せる。

「亜矢ちゃん、ボクは…今、約束を果たす。ボクの全ての力にかえても……絶対に!」

それが、天使・リョウの思い。
リョウの手の甲に重ねるようにして、コランは小さな手の平を乗せる。

「アヤ…。生き返りたいというアヤの願い、オレはあの時、叶えられなかったけど……今度は…絶対!!」

それが、小悪魔・コランの思い。

「オレ様は必ず、亜矢を手に入れる…!!魂だけじゃねえ、亜矢の全てを!!」

それだけが、死神・グリアの思い。
最後に、グリアは2人の手に重ねて自分の手を乗せた。
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