死神×少女
ふと、亜矢が気配を感じてコランを抱いたまま振り返った。
そこには、いつの間にかグリアとリョウが立っていた。
亜矢はコランを降ろすと、指で涙を拭った。

「結局、全て元通りなのね」

そういう亜矢は、どこか嬉しそうに微笑んだ。
グリアは一歩前に出た。

「ああ、元通りだ。これからの毎日の『口移しも』な」
「そう、口移しも……って、はぁっ!?」

嬉しそうな微笑みから一変、亜矢は固まった。

「な、なんでよ!?もう口移しは必要ないんでしょ!?」

グリアは平然としている。かと思うと、フっと笑った。

「あんたを生き返らせる為に、かなりの力を使い果たしちまったからな。しばらくは毎日、人間の魂を喰い続けねえとオレ様が生きていけねえんだよ」

「そ、そんな!魂を狩るなんてダメよ!」

「だろ?だから、あんたの命の力をもらうぜ。毎日、『口移し』でな」

亜矢は何も言い返せなくなった。つまり、これって…。
立場が逆転しただけで、何も変わってないという事!?
確かに、『魂の器』の儀式によって膨大な力を宿した亜矢の魂なら、毎日グリアに『命の力』を与え続けても影響はないだろう。
いや、ある。毎日唇を奪われるという、精神的苦痛がっ!


「いやーー!!何でそうなるのよっ!?」


亜矢の叫び、空しく。
リョウはただ、そんな亜矢を見て苦笑いしていた。

「いや、同じじゃないぜ。今度の口移しは1年じゃ済まねえ、無期限だ。毎日オレ様を満たせよ、亜矢」

「はあっ!?何よそれ!!冗談じゃないっ!!」
「なんだよ、2度も生き返らせてやった恩を忘れたとは言わせないぜ」

またもや脅迫行為に出たか!?と、亜矢は悔しいながらも諦めの溜め息をついた。
これでは、1年前と全く同じではないか。

「オレ様も今まで通り、右隣の部屋に住むぜ」
「………もう、好きにして」

亜矢は力なく答えた。これからの日々を思うと、再び気が重くなる。

「また、オレ様がお隣サンで嬉しいか?」
「全然嬉しくないっ!!」
「そうか、なら同棲の方がいいか?ハハハハ!!」
「バカーーーー!!!」

何やら1人、空回りな怒りをぶつけている亜矢。
そんな2人を見ているコランとリョウ。

「なあ、なんでアヤは怒ってるんだ?」

リョウはぷっと吹き出して笑う。

「違うよ、仲がいいんだよ」

ちょっと羨ましい、とリョウは思った。






『口移し』をする者と、される者。
立場の逆転はあっても、そこからまた、変わらない日々の始まり。
死神と天使に挟まれ、小悪魔と共に暮らす生活。
普通の少女の普通でない日常生活は、まだ始まったばかり。
死神は、新たな目的を果たす為、少女に迫る。

亜矢の心を、手に入れる。

『口移し』……いや、『口付け』にこめられた本気の野望に、
亜矢が気付くのはいつの日だろうか。


―完―

【続編『死神×少女+2』へ続きます】
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