多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
第26話 それって、美味しいですよね?
「ここね……『魂論理学』の教授がいる部屋は」
はぁはぁ息を切らせながら、教授の部屋の前に立つ私。
あのとき、教室に入って来た教授は40代~50代半ば頃と思しき男性だった。
始終やる気がなさそうな態度で、授業のほとんどを教科書読みで終わらせるなんて……。
その態度だけでも十分怪しいのに、教授が教室を出て行った後の学生たちの会話。
それが、今私がここに来た理由なのだ!
――コンコン!
早速目の前の扉を少し乱暴にノックすると、少しの間が空いて扉が開かれた。
「何か用ですか?……授業の質問なら受付できませんよ?」
「は?」
教授なのに、授業の質問は受け付けられない? ここまでやる気が無い教授とは……。
「いえ、授業の質問で来たわけではありません。……失礼します」
「え? あ! ちょっと……君……!!」
慌てる教授を押しのけ、部屋の中へ入ると私はあり得ない物を発見した。
そうか……やはり、そういうことだったのか。私の思っていた通りだ。
「何故ですか? 見られたら何か困るものでもあるのですか?」
私はある一点を見つめながら背中で答える。
「こ、困るものって……」
そこで私は振り向くと尋ねた。
「教授、あなたは一体何者ですか?」
「な、何者って……た、『魂理論学』の教授……ビンセント・マイルだよ」
教授の名前なんか、私は知らない。けれど……。
「本当にそれが教授の名前ですか?」
「本当にって……本当に決まっているじゃないか!」
「なら、あれはいったい何ですか?」
私は卓上に置かれた、インスタントカップ麺を指さす。
カップ麺には『スープが旨い、たっぷり濃厚豚骨ラーメン』と書かれている。
「あ、あれは……その……」
ゴニョゴニョと口の中で何やら言っているが聞き取れない。
「あれって……中々美味しいですよね?」
「え? な、何を……」
「豚骨なのに、脂ぎっていないのでスープは確かに美味しいです」
「ま、まさか……」
教授が小刻みに震えている。
「ええ、私は……」
「君も、あのラーメンが好きなのか!? 驚きだ!」
「はぁ!?」
いやいや、驚くのはそこじゃないでしょう!?
「そうなんだ。俺は以前からあのカップラーメンが大好きでね……思わず箱買いしてしまっていたんだ。週に1度は食べていたな……だけど、最近は勿体なくて今は月に1度しか食べていないよ」
「ちょっと待ってください! 私が言いたいのはそんなことではありません! 教授、あなたも本当は日本人なんですよね!? そんな赤毛で、青い瞳をしていますけど……!」
「え……? そ、それじゃ……君も……?」
「はい、私も教授と同じ日本人です」
私は腕組みをした――
****
「ふ~ん……そうか。学生たちが『半年前とはまるで別人のようだ』と話していた辺りから怪しんだと言う訳か。はい、お茶をどうぞ」
教授が私の前に緑茶を置いた。
「ありがとうございます」
早速お茶を口にする。
あぁ~……やっぱり日本のお茶は美味しいなぁ。
「教授が授業をまともに出来なかったのは教えたくても教えられなかったからですね?」
「そ、そうなんだ……俺は勉強が苦手で‥…コンビニのアルバイト店員だったのに……」
項垂れる教授‥‥‥いや、コンビニ店員かな?
「ところで、今何歳ですか?」
「俺? フリーターで19歳だけど?」
「えええっ!? まさかの年下!?」
「え? それじゃお姉さんですか?」
ゾワアア……
どう見ても中年男性に、お姉さんと言われて全身に鳥肌が立つ。
「あのね、中年男性にお姉さんと言われるとゾッとするのでやめてくれる? ステラと呼んで頂戴」
相手が年下なら敬語は不要。
「あ、はい。ステラ。だけどゾッとするって……いくら何でも酷くないですか? 俺の方が余程、こんな中年オヤジになってショックを受けているっていうのに……」
シュンとした様子でうなだれるアルバイト店員。あ~それはたしかにそうかもしれない。
19歳という若々しい身体が、くたびれた中年オヤジの姿になってしまったのだから。
そして、話を聞いて分かったことは私と彼のおかれている状況が殆ど同じであるということだった。
半年前、彼は連続夜勤で疲れ切った身体で帰宅し眠りについた。
そして目覚めれば、見知らぬ場所でこの姿になっていたということだ。
それだけではない。
彼は自分の賃貸アパートにいる部屋の夢を見て、買い置きしていたカップ麺を手にした。
すると目が覚めた時に、カップ麺を握りしめていたというわけだ。
「俺が目覚めた部屋には『魂理論学』についての本があちこちに散乱していて……それで思ったんだ。きっと、この身体の持ち主に魂を交換されてしまったんじゃないかって」
「成程……あり得る話ね」
何しろ、ここに2人の生き証人がいるのだから。
彼が魂を交換されたのは何となく納得がいくけれども、何故ステラ迄こんなことになってしまったのだろう。……解せない。
「それで『魂理論学』の授業で、講義したんだ。ある日別の人間として目覚めた場合、それは転生ではなく、魂の交換が行われたからだって。そうしたら……」
そこでフリーターは俯く。
「ちょっと、最後まで話してよ。気になるじゃない」
「そしたら……カレンと言う女子大生が授業終了後に文句を言ってきたんだ。夢の無い話をするな、ここは自分の理想の世界なのだからって」
「え……?」
その話に、思わず私は目を見開いた――
はぁはぁ息を切らせながら、教授の部屋の前に立つ私。
あのとき、教室に入って来た教授は40代~50代半ば頃と思しき男性だった。
始終やる気がなさそうな態度で、授業のほとんどを教科書読みで終わらせるなんて……。
その態度だけでも十分怪しいのに、教授が教室を出て行った後の学生たちの会話。
それが、今私がここに来た理由なのだ!
――コンコン!
早速目の前の扉を少し乱暴にノックすると、少しの間が空いて扉が開かれた。
「何か用ですか?……授業の質問なら受付できませんよ?」
「は?」
教授なのに、授業の質問は受け付けられない? ここまでやる気が無い教授とは……。
「いえ、授業の質問で来たわけではありません。……失礼します」
「え? あ! ちょっと……君……!!」
慌てる教授を押しのけ、部屋の中へ入ると私はあり得ない物を発見した。
そうか……やはり、そういうことだったのか。私の思っていた通りだ。
「何故ですか? 見られたら何か困るものでもあるのですか?」
私はある一点を見つめながら背中で答える。
「こ、困るものって……」
そこで私は振り向くと尋ねた。
「教授、あなたは一体何者ですか?」
「な、何者って……た、『魂理論学』の教授……ビンセント・マイルだよ」
教授の名前なんか、私は知らない。けれど……。
「本当にそれが教授の名前ですか?」
「本当にって……本当に決まっているじゃないか!」
「なら、あれはいったい何ですか?」
私は卓上に置かれた、インスタントカップ麺を指さす。
カップ麺には『スープが旨い、たっぷり濃厚豚骨ラーメン』と書かれている。
「あ、あれは……その……」
ゴニョゴニョと口の中で何やら言っているが聞き取れない。
「あれって……中々美味しいですよね?」
「え? な、何を……」
「豚骨なのに、脂ぎっていないのでスープは確かに美味しいです」
「ま、まさか……」
教授が小刻みに震えている。
「ええ、私は……」
「君も、あのラーメンが好きなのか!? 驚きだ!」
「はぁ!?」
いやいや、驚くのはそこじゃないでしょう!?
「そうなんだ。俺は以前からあのカップラーメンが大好きでね……思わず箱買いしてしまっていたんだ。週に1度は食べていたな……だけど、最近は勿体なくて今は月に1度しか食べていないよ」
「ちょっと待ってください! 私が言いたいのはそんなことではありません! 教授、あなたも本当は日本人なんですよね!? そんな赤毛で、青い瞳をしていますけど……!」
「え……? そ、それじゃ……君も……?」
「はい、私も教授と同じ日本人です」
私は腕組みをした――
****
「ふ~ん……そうか。学生たちが『半年前とはまるで別人のようだ』と話していた辺りから怪しんだと言う訳か。はい、お茶をどうぞ」
教授が私の前に緑茶を置いた。
「ありがとうございます」
早速お茶を口にする。
あぁ~……やっぱり日本のお茶は美味しいなぁ。
「教授が授業をまともに出来なかったのは教えたくても教えられなかったからですね?」
「そ、そうなんだ……俺は勉強が苦手で‥…コンビニのアルバイト店員だったのに……」
項垂れる教授‥‥‥いや、コンビニ店員かな?
「ところで、今何歳ですか?」
「俺? フリーターで19歳だけど?」
「えええっ!? まさかの年下!?」
「え? それじゃお姉さんですか?」
ゾワアア……
どう見ても中年男性に、お姉さんと言われて全身に鳥肌が立つ。
「あのね、中年男性にお姉さんと言われるとゾッとするのでやめてくれる? ステラと呼んで頂戴」
相手が年下なら敬語は不要。
「あ、はい。ステラ。だけどゾッとするって……いくら何でも酷くないですか? 俺の方が余程、こんな中年オヤジになってショックを受けているっていうのに……」
シュンとした様子でうなだれるアルバイト店員。あ~それはたしかにそうかもしれない。
19歳という若々しい身体が、くたびれた中年オヤジの姿になってしまったのだから。
そして、話を聞いて分かったことは私と彼のおかれている状況が殆ど同じであるということだった。
半年前、彼は連続夜勤で疲れ切った身体で帰宅し眠りについた。
そして目覚めれば、見知らぬ場所でこの姿になっていたということだ。
それだけではない。
彼は自分の賃貸アパートにいる部屋の夢を見て、買い置きしていたカップ麺を手にした。
すると目が覚めた時に、カップ麺を握りしめていたというわけだ。
「俺が目覚めた部屋には『魂理論学』についての本があちこちに散乱していて……それで思ったんだ。きっと、この身体の持ち主に魂を交換されてしまったんじゃないかって」
「成程……あり得る話ね」
何しろ、ここに2人の生き証人がいるのだから。
彼が魂を交換されたのは何となく納得がいくけれども、何故ステラ迄こんなことになってしまったのだろう。……解せない。
「それで『魂理論学』の授業で、講義したんだ。ある日別の人間として目覚めた場合、それは転生ではなく、魂の交換が行われたからだって。そうしたら……」
そこでフリーターは俯く。
「ちょっと、最後まで話してよ。気になるじゃない」
「そしたら……カレンと言う女子大生が授業終了後に文句を言ってきたんだ。夢の無い話をするな、ここは自分の理想の世界なのだからって」
「え……?」
その話に、思わず私は目を見開いた――