多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

第66話 食い違う2人

――23時
 
 私はエドが宿泊している部屋の前にやって来ると、扉をノックしながら声をかけた。

「エド、いますか?」

すると、素早く扉が開かれた。

「勿論、起きているさ。早く入りな」

「は、はぁ……」

コレではどちらがこの屋敷に住んでいるか分からない。

部屋の中に入ると、ベッドの周囲にだけオイルランプが置かれてユラユラと明かりが揺らめいている。

「これはまた用意周到ですねぇ……?」

隣に立っているエドを見上げる。

「当然だ、いつでも寝れる準備はできている……と言うか、ステラ。何だ? その色気もへったくれもない奇妙な服装は……」

「え? これですか?」

私は自分の着ている服をじっと見る。

「これはスウェットと言って、私が日本人だったころに好んで着ていた部屋着ですよ。このダブダブ感が最高なんです」

ヨレヨレのゴム入りズボンにパーカーは、確かにこの世界では少し異質な服に見えるだろう。

「ふ〜ん……」

興味なさげに私の服を見ているエド。

「それよりもエド、一体何ですか? その姿は……ガウン姿なんて、ありえないでしょう?」

「え? 何故だ? 夜寝るときにはガウンが最適だろう? 直ぐに脱ぎ着出来るじゃないか」

「直ぐに脱げてどうするんです? そんな無防備な格好していたら駄目ですよ」

「何でだ?」

首を傾げるエド。
おかしい。どうにも私とエドの会話が噛み合っていない気がする。

「エド、これから何をするか分かっていますか?」

「ああ、勿論分かっている。ステラ……これから、俺達一緒に寝るんだろう?」

「ええ、そうです。だから尚更、そんな格好駄目ですよ。もっと動きやすい服装になってもらわないと」

「……は?」

「とりあえず、ご自分の着ていた服に着替えてくださいよ。こんな時間なので、新しい着替を用意するような余裕は無いので。さ、向こうのバスルームで着替えてきて下さい。私はここで待っていますから」

着ていた服を彼に持たせると、背中をグイグイ押す。

「ちょ、ちょっと押すなって。分かったよ、着替えてくるって」

エドは渋々バスルームへと入っていき、私は椅子に座って待つことにした。


「お待たせ」

バスルームから着替えを終えたエドが出てきた。

「はい、お待ちしておりました。では早速寝ましょう!」

「わ、分かった……随分積極的だな」

ベッドへ向かう私に背後からエドが声をかけてくる。 

「ええ、これから何が起きるかと思うとドキドキしてきます」

「ドキドキ……? そ、そうか。そう言われると、俺も何だか緊張してきた」

「さて! それじゃ寝ましょう!」

ベッドにゴロリと寝転がり……。

「あの、エド」

「何だい? ステラ」

やけに甘い声で返事をするエド。

「……何故、私の上に覆いかぶさっているのでしょう?」

「だって、今から寝るんだろう?」

「ええ、そうです。だから、早く隣に寝てくださいよ」

エドの身体を押しやった。

「ええ!? ね、寝るって……本当に、ただ寝るだけか?」

「当然じゃないですか! そのために、ここへ来たんですよ。あ、ちゃんと手は繋いで寝ますからね」

隣に寝たエドの手をしっかり握りしめる。

「ええ!? ただ寝るだけじゃなくて、手も繋がないといけないのか?」

「当然じゃないですか。そうでなければ一緒に寝る意味がありません」

「全く……こんな状況で寝られるはず無いだろう……」

口の中で小さくブツブツ呟いているエド。

「あ、何なら無理に寝なくてもいいですよ。要は私だけが眠りにつけば良いだけの話しですから?」

「はぁ? ますます言ってる意味が分からないよ」

「しっ! 静かに! コレでは眠れないじゃないですか!」

「……分かったよ。静かにしていればいいんだろう?」

「「……」」

私達は黙ったまま手を繋いで横たわっていた。

それから少しして、隣に寝ているエドから静かな寝息が聞こえ始めてきた。
あれほど、こんな状況で寝れるはずがない等と言っていたのに……。

やがて、私もエドの寝息に誘われて……いつしか深い眠りについていた――

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