俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です

22 勘付く総悟



 土曜日に発熱した獅童だったが、日曜には解熱して、月曜の今日はすっかり元気になっていた。
 小児科医からは「感染症なんかも園で流行っていないようですし、引っ越したり子ども園に通い出したり、環境が急に変わったからお熱が出たのかもしれませんね」と言われた。
 母親である桃花はホッと一安心して、我が子をぎゅっと抱きしめる。

「良かった、獅童のお熱が下がって。獅童もドキドキ緊張してたのね」

「だいじょぶ!」

 柔らかくてムチムチと弾力のある肌を抱きしめていると、桃花は夢見心地である。

「念のために、ひいばあばが獅童と一緒に今日も過ごしますからね」

「ひいばあば!」

 桃花は祖母に感謝しつつ獅童のことを預けると会社に出勤した。
 社長室へと向かうと、総悟が先に部屋の中に座っている。

「おはようございます、二階堂社長」

 爽やかに声をかけた桃花だったが、総悟はなぜだか不機嫌だった。というよりも、土日は出張もなく休みだったはずなのに、なぜだか彼の目の下にクマができている。

「……うん、おはよう」

 机に肘をつけて頬杖しながら書類に目を通していたが、ちらりと桃花を一瞥すると、視線を書類に再び戻した。

(何なのかしら……? 最近こんなに朝早くに出勤しているのも珍しいし、何か緊急の案件か何かが会長から送られてきたとか? それとも……)

 自分にとって都合の良い想像が、桃花の脳裏を過ぎる。

(土曜日のデート中に私が帰ったから機嫌が悪いわけ、なんてことあるわけないか……)

 理由は分からないが、途中で帰ったのは確かだ。
 総悟の元へと向かうと、桃花は頭を下げる。

「社長、土曜日は途中で帰ってしまい申し訳ございませんでした」

 すると、総悟がチラリと視線だけを桃花に送ってきた。

「別に……気にしてないよ」

 そうして、再び書類に視線を移す。だがやはり、総悟の機嫌はあまり良くない。

「社長が目を通している書類は緊急の案件なのでしょうか? どうかお教えいただけますか?」

 けれども、しばらく返事がない。
 桃花はその場で背筋を伸ばしたまま、相手の反応を待った。

「別に……そんなんじゃないよ」

 総悟の機嫌がなぜ悪いのかは皆目見当もつかないが、ひとまずコーヒーの準備でもしよう。
 そう思って、荷物を指定の位置に置いた後、部屋の隣にあるコーヒーメーカーへと向かう。
 コーヒー豆の瓶を開けて、そっとスプーンで掬って、中に入れる。
 そうして、桃花が沸騰するのを待っていたら……

「ねえ」

「ひゃあっ……!」

 突然背後から声を掛けられてしまい、桃花の身体がビクンと跳ね上がった。
 振り向けば、不機嫌そうな表情のまま、総悟が立ち尽くしているではないか。
 気配を全く感じなかったのでびっくりしてしまい、桃花の心臓がバクバク落ち着かない。
 総悟が腕時計で時間を確認した。

「まだ始業開始までに十分あるから、個人的な質問をするんだけど……」

「個人的な話ですか……?」

「うん」


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